使用借権は対価の支払いがない無償であることが前提であり、また対抗力を有しないものです。従って建物存立根拠の権利としては極めて弱い権利であり、対価を支払い使用借権を入手しようとする者は通常考慮し難く、権利価格自体発生し得ないという考えもあります。一方で、使用借権の設定は主に私人間の強い信頼関係を前提として成り立っており、使用借権者は対価の支払いなく建物を利用できるという経済的利益を有しているともいえます。
ではこの使用借権の価格をどのように算出すべきか。
もっとも簡単な査定法としては「公共用地の取得に伴う損失補償基準」及び「財産評価基準」の借地権割合を参考とすることです。財産評価基準により借地権割合を求め、これに損失補償基準による標準割合の1/3を乗じる方法です。
しかし、これによる査定では地域によっては更地価格に対して20%以上もの価値を認める結果になることも珍しくなく、対効力もなくいつ失うかわからない権利に20%もの価値を認めていいのか疑問が残ります。
そこで1つの方法として、「対価の支払いなく建物を利用できるという経済的利益」に着目して価格を判定する方法を挙げてみます。使用借権に基づく建物所有者は建物が朽廃するまでは当該建物を利用し続けるのが通常であり、その間土地を無償で利用できる利益を有しています。従って建物の残存耐用年数を前提として、本来ならば負担すべきである公租公課を算定し、発生する各年に対応する適正な割引率で割り戻した額を合計することにより算定が可能となります。
1つ実例を挙げてみます。尚、ここでは更地価格を100%として百分率での査定を前提とします。
土地は市街化区域内の住宅地で200?u、税率は固定資産税・都市計画税合計で1.6%
まず負担する税金割合は、固定資産税の課税標準が公示価格ベースの概ね70%となっていることから、更地価格に対する年毎の税の負担率は、
70%×1/6×1.6%≒0.187% ※1/6は小規模住宅用地の特例
計算を単純化するために本来は将来負担すべき税額は現在価値に割り引くべきであるが、単純化モデルでの説明のためそれを省略し、更に戸建住宅の耐用年数を30年とすると、この0.187%を30年負担するため
0.187%×30≒5.6%
また、耐用年数を25年とすると
0.187%×25≒4.7%
以上のように将来の経済価値を割り引かないとしても4~6%程度しか使用借権による経済的価値はないことになります。また新築住宅を前提としましたが、これが中古住宅であれば耐用年数も短くなり更に価値は下がっていきます。
上記計算もあくまで単純モデル化しただけであり、実際には公租公課の実額等の資料が必要になり、また適正な割引率の査定も必要となります。適正な価格を出すためには、契約内容等を十分に吟味し査定することが必要です。
また、もう一つの考え方として更地に対する適正な賃料から、使用借権者が実際負担している額を控除し、その差額について上記式に当てはめるという考え方もできます。但しこの場合前提となる適正な賃料は借地借家法により対抗力が存する経済価値を前提とすることとなると想定されるため、法的安定性の類似性という意味ではやや疑問が残りますが、使用貸借契約の内容及び評価の目的次第ではこちらのほうが説得力を有する場合も出てくると思われます。
用地買収等公的で画一的かつ大量に処理する場合には割合方式にも一定の妥当性があるでしょうが、そうでない場合については単純に借地権割合に対して割合を乗じるだけでは実態に即した価格とは言い難くなります。通常の土地、建物の価格とは異なり、使用借権のような一般的でない評価はまさに鑑定士の調査分析の腕の見せ所となるのではないでしょうか。